本研究の目的は、AIや実験データの活用により、二酸化炭素の資源化を可能にする材料デバイスを加速的に開発することである。代表者が開発に成功した二酸化炭素耐性の高いSc置換ジルコン酸バリウム(Adv. Energy Mater.2020)を電解質とした次世代プロトン伝導性固体酸化物形電解セルを構築し、二酸化炭素の資源化と高付加価値樹脂原料であるオレフィンの選択製造を達成する。効率的開発のため、代表者が開発したプロトン伝導体を対象とした機械学習モデル(ACS Energy Lett.2021)を二酸化炭素資源化反応が起きるヘテロ界面構成材料に拡張する。さらに、九州大学における総合知を有機的に連携、エネルギー研究教育機構をプラットフォームとして活用することで、反応をナノレベルからデバイスシステム、経済という幅広い観点から俯瞰的に評価する。九州大学が目指す「脱炭素」および日本が目指す「2050年カーボンニュートラル社会」の実現に大きく貢献することが期待される。
本研究のオリジナリティは、AIや実験データの活用により、二酸化炭素の資源化を可能にする材料デバイスを加速的に開発し、二酸化炭素の資源化とプロピレンの製造を同時に達成する点にある。また、科学技術開発のみに留まらず、テクノロジーの社会経済性を考慮する点にも特徴がある。
プロトンのみが伝導可能かつ二酸化炭素耐性の高いプロトン伝導性固体酸化物を電解質材料(Adv. Energy Mater.2020)とした電解セルと触媒を組み合わせ、電気化学ポテンシャルを利用することにより、従来の不均一触媒では到達不可能な平衡収率を超える二酸化炭素還元とプロパン(C3H8) の脱水素化反応(プロピレン(C3H6)製造)を、高い選択性と共に実証できると期待される。本モジュール構築により、本学に分散している総合知を有機的に連携・活用することで、日本のCO2排出量削減目標(2030年度に2013年度比で46%)達成という社会的課題解決に貢献できる。
州大学エネルギー研究教育機構(Q-PIT)および大学院工学府材料物性工学専攻の星野健太博士(研究当時)、兵頭潤次特任助教、山本健太郎特任助教(研究当時)、山崎仁丈教授の研究グループと山形大学学術研究院の笠松秀輔准教授は、九州シンクロトロン光研究センターの瀬戸山寛之博士およびあいちシンクロトロン光センターの岡島敏浩副所長らと共同で、400℃動作固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質として期待されているプロトン(H+)伝導性酸化物において、プロトン導入反応が起きる局所構造(活性サイト)を明らかにしました(図1)。これは、実験とデータ科学、計算科学を融合することにより、世界で初めて得られた研究成果です。本研究で得た知見をもとに、局所構造の最適化を基盤とした新たな材料設計戦略を立てることで、プロトン伝導性電解質や中温動作固体酸化物形燃料電池の開発が大幅に加速されることが期待されます。
実験、データ科学および計算科学の融合により可視化に成功したプロトン伝導性電解質中の水和反応サイト
アクセプター置換したペロブスカイト酸化物は、水蒸気を取り込み材料中にプロトンを導入することで、高いプロトン伝導性を示すことが知られています。水和反応はプロトン伝導発現の起源となる反応であるため、水和反応を活性化する局所構造の同定は、1981年にプロトン伝導体が発見されてからこれまで数々の研究者が挑戦してきた難問ですが、局所構造を実験的にプローブできるX線吸収分光法や固体核磁気共鳴法(NMR)の適用が室温環境に限定されていたため、今日まで未解明のままでした。
本研究グループは、ペロブスカイト酸化物の中でも既報の中で最高レベルのプロトン伝導性と化学的安定性を兼ね備えたSc置換ジルコン酸バリウムに着目し、放射光を用いたその場水和実験、スーパーコンピュータと機械学習を活用した大規模シミュレーションおよび精密熱重量分析を組み合わせることにより、水和反応を活性化する材料中の局所構造を多角的に調査しました。その結果、スカンジウム(Sc)とジルコニウム(Zr)および二つのScに挟まれた酸素欠損欠陥が水和反応の局所活性サイトであることを特定し、その温度依存性を明らかにすることに成功しました。
本研究成果は、米国化学会の国際学術誌「Chemistry of Materials」で公開され、カバーアート(図1)として採用されました。
Susumu Fujii, Yuta Shimizu, Junji Hyodo, Akihide Kuwabara*, and Yoshihiro Yamazaki*
Advanced Energy Materials, 2301892, 2023
DOI: 10.1002/aenm.202301892
Kenta Hoshino, Shusuke Kasamatsu, Junji Hyodo, Kentaro Yamamoto, Hiroyuki Setoyama, Toshihiro Okajima, Yoshihiro Yamazaki*
Chemistry of Materials, 35, 6, 2289–2301, 2023
DOI: 10.1021/acs.chemmater.2c02116
論文がカバーアートとして採用されました!
Junji Hyodo, and Yoshihiro Yamazaki
Journal of Physics: Energy, 4(2022) 044003.
DOI: 10.1088/2515-7655/ac889e
Junji Hyodo, Kota Tsujikawa, Motoki Shiga, Yuji Okuyama, and Yoshihiro Yamazaki*
ACS Energy Lett. , 2021, 6, 8, 2985–2992.
DOI: 10.1021/acsenergylett.1c01239
Yoshihiro Yamazaki, Akihide Kuwabara, Junji Hyodo, Yuji Okuyama, Craig A. J. Fisher, and Sossina M. Haile
Chem. Mater., 2020, 32, 17, 7292-7300.
DOI: 10.1021/acs.chemmater.0c01869
Junji Hyodo, Koki Kitabayashi, Kenta Hoshino, Yuji Okuyama, Yoshihiro Yamazaki
Adv. Energy Mater. , 2020, 10, 25, 2000213.
DOI: 10.1002/aenm.202000213