本研究では、地下の未利用石油/石炭資源を利用した未利用地下資源の地下CO2フリー水素化システムを確立する。従来の採掘方法では経済的および技術的な理由により50 %以上の石油/石炭が地下に取り残されており、それらの未利用資源を地下原位置で水素に転換して回収する技術を確立する。また、水素と同時に生成するCO2をそのまま地下に留め残したり、水素と分離して採炭・採油跡地に貯留したり、さらにはCO2を有効利用する技術を確立してCO2フリーの水素生成を実現する。同システムを社会実装するためには、その安全な操業と、地域住民の社会的受容性の醸成が必須であり、そのための地下・地表のCO2モニタリングシステムやリスク管理システムを確立する。このように、化石燃料の地下原位置水素転換からCO2の処理・有効利用を、確固たるリスク管理の下で実現し、地域住民の社会的受容性も得られる一つのパッケージとして社会実装を目指す。
説明図 研究のコンサート
地下に大量に取り残されている石油/石炭の未利用資源に対して、地下ガス化技術を適用による水素への転化およびCO2をそのまま炭酸塩鉱物として地下に留め残すことで、環境低負荷な水素の生成システムの確立を目指す。また、安全なCO2の地下貯留に向けた地下のモニタリング技術の確立や相当量のCO2を削減するためのCO2の有効利用の検討も行う。
助教, 工学研究院 地球資源システム工学部門
CO2の地下留め残し技術の研究を担当
本モジュール研究成果を、国内の衰退した旧炭鉱町に適用することで地産地消による地方創生が期待され、分散型の水素エネルギーネットワークの構築により、脱炭素への貢献はもちろんのこと、エネルギーの安定供給や災害などの非常事態および国際情勢の変化による影響を最小限に留める強靭なエネルギー保障体制の確立にも貢献しうる。また、採掘されずに地下に取り残されている石油/石炭資源の地下水素化による水素の回収、CO2の処理および有効利用、地下炭層内に貯留したCO2の環境モニタリングならびに地表面におけるCO2漏洩有無のモニタリングを一つのパッケージとして確立することで、産炭/産油国ある中国、インドネシア、ベトナム、ウズベキスタンならびにオーストラリアなどの研究者らと協力し、本システムの海外展開も期待される
既往の石炭地下ガス化模型実験の結果を基に、COMSOL Multiphysicsを用いて地下ガス化の化学反応モデルを構築し、地下ガス化中の水注入が反応温度および水素の生成に与える影響に関して検討を行った。その結果、水注入による反応領域の温度の低下および還元反応の促進による水素増産効果が確認され、注入する水/酸素モル比が3.11までは水注入による水素の増産効果が期待できることを確認した。
北海道三笠市で実施された三笠市CO2地下固定実験において、採掘跡地へボーリングを掘削し、CO2マイクロバブル水の注入およびCO2固化剤として高炉スラグスラリーの注入を行った。ボーリング調査および各種物理検層により採掘跡地は過去の採掘の影響で多数のき裂および空隙が存在していることが確認され、地下への注入実験よりCO2マイクロバブル水および高炉スラグスラリーの採掘跡地への注入性に問題がないことを確認した。また、高炉スラグスラリーの注入実験後に採掘跡地の透水性の低下が確認されたため、採掘跡地においてCO2マイクロバブル水および高炉スラグスラリーの反応によるき裂の閉塞が生じたと考えられる。また、実験後の孔内水の採水および分析を行ったところ、Caイオンが低減していたことから、地下に注入したCO2マイクロバブル水との反応によってCaCO3の析出に消費された可能性が示された。
濵中晃弘,板倉賢一,児玉淳一,出口剛太 / 石炭地下ガス化(UCG)における炭層の破壊メカニズムと反応領域のモニタリ(招待講演)/ 資源・素材関係学協会合同秋季大会 (2022年9月6日).
Hamanaka, A.; Su, F.Q.; Itakura, K.; Takahashi, K.; Kodama, J.; Deguchi, G.
Fuel, 305, 121556, 2021
DOI: 10.1016/j.fuel.2021.121556
Figure: Concept of underground gasification system
Machida, H.; Esaki, T.; Yamaguchi, T.; Norinaga, K.
ACS Sustainable Chem. Eng., 8, 8732-8740, 2020
DOI: 10.1021/acssuschemeng.0c02459