脱炭素社会を目指したエネルギーの活用において、持続的なエネルギー源である光エネルギーの活用は重要性が高い。分子性材料はその優れた多様性や設計性により光エネルギー活用における更なる貢献が期待されるが、社会実装に向けては更なる高性能化と機能化が求められる。本モジュールでは、Q-pitに参画する研究者の中でも分子性材料の光機能を専門とした実績のある若手研究者が集い、それぞれの最先端分子性材料や精密分子集積化技術、波長変換技術、超高速分光技術を融合することで、高効率な光エネルギー変換システムの構築に取り組む。本モジュール研究を契機に、異なる目的で開発されてきた光機能性分子材料をエネルギー分野に初めて応用することで、新たな融合領域を切り拓くことを目指す。複雑系である分子集合体の光エネルギー科学の学理を確立し社会実装への歩みを進め、新分野創造の布石となる基盤を構築する
多彩な分子光材料を扱うトップレベルの関連若手研究者が同一研究機関に所属している環境は世界的に見ても特異的に恵まれた環境であり、これを活かして各分野で世界最先端の研究を担ってきた光機能性分子を集結・複合化させ、革新的な「光エネルギー→物質変換システム」を構築する。材料開発・デバイス構築・分光評価までの全貌を視野に入れながら研究を進め、理学と工学が融合した一気通貫の光エネルギー変換分子科学を展開する。
太陽光エネルギーの大半を占める可視光および近赤外光を余すことなく活用し、水素エネルギー創出やCO2資源化といった人工光合成の達成によりエネルギー問題への新しい化学的アプローチを提案する。具体的には、❶異種光機能性分子の精密複合化による新規光捕集・反応系の構築、❷光触媒とフォトン・アップコンバージョンとの融合による低エネルギー光利用、❸光反応を含む励起状態ダイナミクスの解明、を目指す
当モジュールの一番の特徴は、光化学に関する尖った技術を持つ研究者がそれぞれの技術をさらに研鑽し光と分子の技術のすそ野を広げる機能開拓を進めていける点であり、尖った技術同士をうまく融合させていく中で新しい研究の可能性を見出す点である。新しい共同研究も織り交ぜながら、以下のように広く光分子技術の開発を進めることができている。光エネルギーの有効利用には光の波長の自在な変換ができることが望ましい。特に人工光合成などに利用される光触媒は紫外領域の光を効率よく使うことができるが。可視光に対する応答性は課題である。楊井准教授は可視光を紫外光に効率よく変換する光アップコンバージョン材料を開発し、反応に費用可能な波長領域の抜本的な拡張に成功した。さらに、実際に光反応への応用可能性を拓いた[1]。他にも小野准教授による分子を認識する複合材料の開発[2]、アルブレヒト准教授によるデンドリマー材料の光機能制御[3]、中野谷准教授による超長寿命光誘起キャリアの制御による新デバイスの提案[4]など多くのすぐれた材料・機能の開拓的研究を進めることができた。中でも、宮田准教授と楊井准教授の共同研究で、有機材料特有の光機能である一重項励起子分裂を核磁気共鳴測定の感度増強に応用するという全く新しい有効活用を提案、実証できた成果[5]はNature Communications誌のEditors’ Highlightsに選ばれるなど世界的に注目を集めた。他にも材料と計測が融合した様々なモジュール内研究が進行中である。
References:
[1] Zahringer, Yanai,* Kerzig et al., Angew. Chem. Int. Ed., 61, e202215340 (2022)
[2] Yano, Nishibori,* Hisaeda,* Ono,* et al., Angew. Chem. Int. Ed., 61, e20220385 (2022)
[3] Albrecht,* Hosokai,* et al., Polym. Chem. 13, 2277 (2022)
[4] Yamanaka, Nakanotani,* Adachi* et al., Adv. Mater. 35, 2210335 (2023)
[5] Kawashima, Kimizuka, Watanabe,* Miyata,* Yanai,* et al., Nature Commun. 14, 1056 (2023)
Fujiwara S., Matsumoto N., Nishimura K., Kimizuka N., Tateishi K., Uesaka T., Yanai P.
Angewandte Chemie Int. Ed.
DOI: 10.1002/anie.202115792
[1] Fujiwara, Yanai, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 61, e2021157 (2022).
[2] Noda, Nakanotani, Adachi, et al., Nature Materials 18, 1084 (2019).
[3] Ono, Hisaeda, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 60, 2614 (2021).
[4] Albrecht, Yamamoto, et al., Chem. Sci., 13, 5813 (2022).
[5] Miyata, Matsumoto, et al., Nature Chemistry 9, 983 (2017).