山崎研究室では持続可能なエネルギー社会の実現を目指し、それに不可欠な要素技術やエネルギー材料に関する研究を行っています。具体的には、太陽エネルギーや熱エネルギーを水素などの化学物質に貯蔵する技術およびその化学物質から高効率に発電する固体酸化物形燃料電池に関する研究で、これらを組み合わせることで理想的には持続可能なエネルギーサイクルを構築できます。しかし、これらを実社会で利用するには効率やコストなど多数の課題を克服する必要があります。私たちはこれら人類における最重要課題に対して材料科学や材料工学の視点から取り組むことで、学術分野はもちろん一般社会にも貢献していきたいと考えています。
AI(人工知能)、機械学習、第一原理計算を活用した加速的材料探索

AIを活用した研究が盛んになり、新聞やニュースでもよく見られるようになりました。ニューラルネットワークや機械学習を用いてビックデータを解析することで、これまでわからなかったデータ間の相互関係を見つけ、それらを用いて自動認識や予測を行うというものです。このような研究は、ゲノム解析、薬開発、有機物自動合成などの分野に応用され、激しい開発競争が進んでいます。一方、無機固体材料分野におけるAI活用は端緒についたばかりです.無機材料分野において、ビックデータレベル(1億程度)の材料を対象に実験データに得ることは不可能であり、100程度のまばらなデータを基に、いかに精度よく材料特性を予測できるかというのが争点となっており、世界中の研究者がしのぎを削って開発しています.当研究室では、従来明らかになっていなかった最新の物理化学的解釈を機械学習の特徴量として入力することで初めて実現可能な材料探索手法を開発しています。このようなAIモデルを開発した結果、たった1回の試作で新規プロトン伝導性電解質を発見しました[1,3]。本手法を用いることにより、革新的な燃料電池、光触媒及び触媒などの材料探索を著しく加速させていきます。
本研究の一部は、CREST(2018-2023)の援助のもと推進しています。
References
[2] AIモデルの開発により、たった1回の実験で新規プロトン伝導性電解質を発見!~中温動作燃料電池に用いる電解質材料の開発加速化に期待~ , JST、九州大学、岐阜大学、宮崎大学プレスリリース, 日本経済新聞, 日刊工業新聞, 共同通信PRワイヤー, 朝日新聞, 毎日新聞, 紀伊民報, 高知新聞, 四国新聞, ZDネットJapan, エキサイト, AFP BBニュース, EE Times, Tii技術情報, 2021/8/4-5.
[3] S. Fujii, Y. Shimizu, J. Hyodo, A. Kuwabara*, Y. Yamazaki*, Synthesizable materials discovery via interpretable, physics-informed machine learning models, preprint on ChemRxiv.
[5] プロトン伝導性電解質の水和活性サイト可視化に成功.JST、九州大学、山形大学、九州シンクロトロン光研究センターおよびあいちシンクロトロン光センターとの共同プレスリリース, 2022/3/16
[6] Y. Yamazaki*, A. Kuwabara, J. Hyodo, Y. Okuyama, C.A.J. Fisher, S.M. Haile, Oxygen affinity: the missing link enabling prediction of proton conductivities in doped barium zirconates, Chemistry of Materials, 32(2020), 7292-7300. (IF:9.567)
[7] プロトン伝導度を決定する新規パラメータを発見、伝導度予測に成功!~計算化学によるプロトン伝導性材料開発の加速化に期待~, 九大プレスリリース, 2020/8/20.
[8] 兵頭 潤次、山崎 仁丈*, "機械学習を用いたプロトン伝導性酸化物の加速的開発" 燃料電池 19(2020), 24-32.
[9] 兵頭 潤次、山崎 仁丈*, "実験データと機械学習を用いたプロトン伝導性酸化物の効率的探索" セラミックス 55(2020), 632-635.
[10] 九州大学材料工学部門研究者紹介
[11] CREST細野領域中間評価「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」.
熱化学水分解金属酸化物(熱化学触媒)

熱化学水分解とは水を熱化学的に分解し水素と酸素を製造する方法で、金属酸化物を2段の温度サイクルにさらすことで可能となります。金属酸化物を高温下におくと一部還元されるため金属酸化物から酸素が放出され、酸化物中に酸素空域サイトが導入されます。ここで温度を急激に下げ水蒸気に曝露すると金属酸化物が水と再酸化し、酸化物中の空域サイトが水分子の酸素で占有され水素が生成します。
私たちはペロブスカイト酸化物を用いた熱化学的水分解を世界にさきがけて実証し、水素製造効率の向上に必要な材料因子を酸化還元反応の熱力学および速度論を駆使して議論してきました[1~4]。さらなる燃料製造の高効率化を目指し、材料中の点欠陥の熱力学的および速度論的挙動を鋭意議論しています。
本研究は科学技術振興機構さきがけ「光エネルギーと物質変換」(2010-2016)の援助のもと推進しています。
References
[2] 山崎仁丈、ハイレソシナ、ヤンチカイ, 熱化学燃料製造用触媒及び熱化学燃料製造方法, 特許第5594800号 (2014), 日本. K04001KR (2018), Korea, 102110240, Taiwan, China, US9873109 B2 (2018), USA.
光水分解金属酸化物(光触媒)
太陽光と水から水素を作る他の方法として、光触媒を用いるものがあります。あるバンドギャップを持った半導体光触媒にバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が入射すると、電子と正孔が生成されます。この電子と正孔をプロトンの還元反応および水の酸化反応に利用できると、水を水素と酸素に分解することができます。光触媒特性は金属酸化物のバンドギャップや点欠陥に大きく左右されるため、当研究室ではこれらの関連性を材料科学の立場から定量的に検討し、光触媒特性の高性能化に貢献しようとしています。
本研究の一部は、科研費 若手研究(2019-2020)の援助のもと推進しています。
References
[4] 山崎 仁丈, 兵頭潤次, 金属酸化物への電子ドープにより光触媒活性が向上!~水素をつくりだす新たな高性能光触媒の開発に向けて~, 九州大学, 東京工業大学, プレスリリース.
[5] 山崎仁丈、兵頭潤次,「金属酸化物への電子ドープで光触媒活性向上 九大・東工大など発見」, 日本経済新聞電子版, 7/2/2018, 化学工業日報, 7/5/2018, 科学新聞 第一面, 7/27/2018.
酸化物粉末に分散した金属ナノ粒子(触媒)
シェールガスは、近年、注目されている天然ガス資源です.主要構成ガスはメタン(CH4)で、水蒸気と共に触媒に供給することで、水素と一酸化炭素を生成できます.触媒反応は固体表面におけるガス分子の吸着、解離、拡散、電子授受および化学反応という素過程から構成され、この中でもっとも遅い反応素過程が触媒反応速度を律速します。これまでの触媒研究は触媒特性の向上を絨毯爆撃的に探索するものであり、これら素過程の速度論という基礎的な知見に基づいた材料設計はほとんど行われてきませんでした。当研究室では材料科学の強みを生かし、金属および酸化物の表面・バルク物性とCO酸化反応速度[1]を実験的および計算科学的に関連づけることで、高性能触媒の設計指針を打ち出し、新たな高性能触媒を提案しようとしています。
本研究の一部は、CREST(2018-2023)および基盤研究B(2021-2023)の援助のもと推進しています。
References
プロトン伝導性酸化物を用いた固体酸化物形燃料電池
燃料電池は水素などの燃料から電気を高効率に発電するデバイスで、イオンのみ透過する電解質とカソード電極およびアノード電極で構成されています。私たちが注目しているのは固体酸化物電解質としてのプロトン伝導性酸化物で、この伝導度が燃料電池の動作温度を決定します。
酸化物中のプロトン輸送機構はプロトン伝導度を理解・制御する上で最も基本的な情報ですが、その機構はプロトン伝導性酸化物の発見(1981)以来わかっていませんでした。私たちはこのプロトン輸送機構がプロトントラッピングによることを世界で初めて見いだし、プロトン伝導度を向上させるための材料設計指針を示しました[4~11]。それらの知見を生かし、中温度(400度)で動作するプロトン伝導性固体酸化物型燃料電池の電解質を開発しました[1-3]。私たちは現在、これらに関する材料科学を勢威構築している所です。
本研究は、科研費 基盤研究A(2015-2018)、新学術(2016-2018)、基盤研究B(2018-2020)、挑戦的研究(萌芽, 2019-2020)、CREST(2018-2023)およびNEDO(2020-2023)の援助のもと推進しています。
References
[1] K. Hoshino†, S. Kasamatsu†, J. Hyodo, K. Yamamoto, H. Setoyama, T. Okajima, Y. Yamazaki*, Probing Local Environments of Oxygen Vacancies Responsible for Hydration in Sc-doped Barium Zirconates at Elevated Temperatures: In Situ X-ray Absorption Spectroscopy, Thermogravimetry, and Active Learning Ab Initio Replica Exchange Monte Carlo Simulations, accepted, preprint in ChemRxiv.
[2] 高いプロトン伝導性と化学的安定性を兼ね備えた電解質材料を開発~400度で動作する固体酸化物型燃料電池開発へ前進~, JSTプレスリリース, 九大と宮崎大、高いプロトン伝導性と化学的安定性を兼ね備えた電解質材料を開発, 日本経済新聞電子版, 2020/5/28.
[3] 山崎仁丈、兵頭潤次、北林康喜、固体電解質、積層体及び燃料電池、特許出願WO2021085366A1.
[5] プロトン伝導度を決定する新規パラメータを発見、伝導度予測に成功!~計算化学によるプロトン伝導性材料開発の加速化に期待~, 九大プレスリリース, 2020/8/20.
[7] 山崎 仁丈, 桑原彰秀, プロトン伝導性固体酸化物の伝導機構, 応用物理, 88 (2019) 267.
[8] 山崎仁丈, プロトン伝導性金属酸化物BaZrO3における置換元素Yの役割とBa欠損の影響, まてりあ 54(2015), 343.
[9] 山崎仁丈, プロトントラッピング~固体酸化物燃料電池,低温動作の鍵となる金属酸化物中のプロトンの拡散~, まてりあ, 54(2015) 242-249.
[10] 山崎 仁丈, 固体酸化物形燃料電池を低温で動かす新たな機構を発見, 科学技術振興機構, 第952号プレスリリース, 日本経済新聞電子版, 5/13/2013, 日経産業新聞「燃料電池の材料特性発見」, 電気新聞「SOFC、低温駆動へ道」, 5/14/2013.