炭素化を基軸とする固体バイオマス資源の高度利用技術開発

研究概要

我が国のCO2排出源の約20%を占める化学工業、材料(鉄鋼)業では原材料のほぼ全てを化石資源に依存している。本モジュールでは、膨大な資源量を有しながら十分に活用されていない、再生可能・カーボンニュートラル資源である固体バイオマスを対象とし、基幹化合物と炭素材料の併産を可能とする新たな変換技術を開発する。基軸となる炭素化の条件の工夫により、無水糖や芳香族化合物といった基幹化合物を選択的に得ると同時に、活性炭、グラファイト、コークス、炭素繊維といった多様な炭素材料を製造する。従来産業プロセスに匹敵する生産性、経済性をもつ技術を目標とする。化学工学、材料化学、触媒化学、分析化学など幅広い分野の研究者の知識を集約、融合し、脱炭素社会の構築に資するバイオマス化学産業への展開を視野に入れた実装可能な技術として昇華させることを目指す。

研究の背景

成熟した大規模産業を持続可能な形に移行するためには生産性が既存技術に匹敵するシステムの構築こそがその実現を可能にする。カーボンニュートラル社会の実現に向けた技術開発において、化石資源に代わり化学品や炭素材料を代替するオプションはリグノセルロース系バイオマスをもって他にない。本研究では、迅速反応である炭素化、言い換えると熱分解を基軸として基幹化合物と炭素材料を併産する技術を開発する。

研究のオリジナリティー

炭素化における分解画分を徹底利用する既往の石油・石炭化学産業に対してバイオマス化学、とりわけその学術研究では単一の物質の製造を目的とすることが殆どである。本研究では炭素化という共通の専門を有しつつも異なるターゲットを対象としてきた研究者たちの共同体制で、迅速反応である炭素化を基軸とするハイスループット反応系で複数のプロダクトを性状や収率を損なうことなく併産する技術を開発する。

モジュールのメンバー

工藤 真二
先導物質化学研究所
准教授
役割:基幹化合物、コークス製造
浅野 周作
工学研究院
准教授
役割:プロセス設計
宮脇 仁
先導物質化学研究所
准教授
役割:活性炭、コークス製造

中林 康治
先導物質化学研究所
准教授
役割:グラファイト、炭素繊維製造

期待される成果・アウトカム

本研究でターゲットとする基幹化合物と多様な炭素材料はバイオマスから製造しうる高需要潜在性をもつプロダクトのほぼ全てをカバーすることができる。リグノセルロース系バイオマスの高度利用法として複数のプロダクトを併産することは、コスト、変換効率(エネルギと物質収支の両面)、品質、実装性等あらゆる面で相乗的な効果が期待される。

研究の成果(令和7年度)

当モジュールでは、各種基幹化合物と炭素材料を併産する固体バイオマス資源の熱化学変換技術、とりわけ炭素化の特性を活かした相補的な変換系により資源を高度に利用する技術の開発を目指した研究を行っている。初年度は情報交換および議論を行うインキュベーションの場とし、個別の研究を推進して次の成果を得ているが、それらは新たなプロジェクトにも発展している。1)リグノセルロース系バイオマスの炭素化で選択的に製造し得る化合物として、セルロースに由来する無水糖、レボグルコサン(LGA)とレボグルコセノン(LGO)が挙げられる。本年度の研究では、原料前処理等の工夫を通じてLGAとLGOのいずれをも連続的かつ高収率で製造する技術の取得に成功した。LGOを原料の一部とするポリマー合成技術の開発も行った。2)CO2由来を想定する有機酸をメディアとして、炭素および触媒として用いる鉄の循環利用をともなうバイオマス由来グラファイトの合成を試み、合成諸条件のスクリーニングを通じて黒鉛化度の高い炭素材料を低温で合成することに成功した。3)Liイオン電池負極材料としての非晶質炭素材料について、その構造と脱Li容量の関係を明らかにした。さらに、129Xe−NMRを用いる非晶質炭素材料の新たな構造解析法の開発に関する成果も報告した。4)炭素化で副生するCOをはじめとする非凝縮性ガスの用途のひとつとなりうるカーボンナノファイバーの合成、および吸着剤として用いる活性炭素繊維の活性向上技術に関する研究成果も報告した。

代表的な論文

Phytic acid as a biorenewable catalyst for cellulose pyrolysis to produce levoglucosenone

T. N. Rafenomananjara, S. Kudo, J. Sperry, S. Asano and J.-i. Hayashi.
RSC Sustainability, 3 (2025) 1366
DOI:10.1039/d4su00502c

Enhancing the Strength of Formed Coke from Woody Biomass with the Addition of Biomass Extracts

Shogo Okida, Hirotsugu Dohi, Shinji Kudo, Shohei Wada, Takahiro Shishido, Noriyuki Okuyama, Shusaku Asano, Jun-ichiro Hayashi
Energy Fuels, 38 (2024) 16532
DOI:10.1021/acs.energyfuels.4c02892

Chaotic-flow-driven mixing in T- and V-shaped micromixers

Shusaku Asano, Shinji Kudo, Jun-ichiro Hayashi
Chem Eng J, 489 (2024) 151183
DOI:10.1016/j.cej.2024.151183

Establishment of Innovative Carbon Nanofiber Synthesis Technology Utilizing Carbon Dioxide

Koji Nakabayashi, Yoshinori Matsuo, Kazuya Isomoto, Kazunari Teshima, Tsubasa Ayukawa, Hiroki Shimanoe, Takashi Mashio, Isao Mochida, Jin Miyawaki, Seong-Ho Yoon
ACS Sustainable Chem Eng, 8 (2020) 3844
DOI:10.1021/acssuschemeng.9b07253

Reevaluation of the Suitability of 129Xe Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy for Pore Size Determination in Porous Carbon Materials

Minghao Li, Keiko Ideta, Koichiro Hata, Hyun-Sig Kil, Kohei Kuroda, Xiazhe Zhai, Koji Nakabayashi, Seong-Ho Yoon, Jin Miyawaki
J Am Chem Soc, 146 (2024) 34401i
DOI:10.1021/jacs.4c10099

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