データ科学を基軸とした異分野融合型産学連携

研究概要

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの主力電源化が求められている。我々は計算科学を手段として、再生可能エネルギーに関連した研究開発プロジェクトに参画し、開発材料の社会実装に貢献する研究を進めている。本計画では総理工の材料分野の若手研究者を結集し、脱炭素に資する材料開発研究拠点の形成を行う。
 この目的のために様々な材料研究分野で活用することのできる統合型物質データベースの開発を行い、若手研究者間の共同研究を支援し、異分野融合による新たな総合智の創出を目指す。関連技術であるトヨタ自動車の材料データベースWAVEMAPとの連携も進め、長期的にはトヨタ自動車などの企業との包括連携による社会実装を目指す。これにより産業界へのキャリアパスを構築し、工学系の学生にとって魅力ある大学となることを目指す。

飯久保_研究の概要図

研究の背景

材料開発研究は、理論・経験・直感に基づいて物質・材料を合成し,その構造や物性を評価することを繰り返して最適化を行うことが必要であり,実用化に至るまでには10年~30年に渡る長い時間を要するのが従来の認識であった。近年,より効率的な材料開発手法の模索が世界中で始まっており,特に計算パワーの増大や密度汎関数法等の予測精度の高いアルゴリズムをベースとした新しい材料開発手法の登場は大いに注目されている。

研究のオリジナリティー

厳しさを増す開発競争の中での物質科学研究の活路は,①複数の分野にまたがる異分野融合とともに,②データ科学と日本の強みを生かした実験データを融合して物質を高速・低コストでスクリーニングする物質データベースを構築し、独自の総合開発手法を編み出すことにある。この目的には、さまざまな材料を専門とする総理工物質科学部門の部局内連携とともに、WAVEMAPという材料探索プラットフォームを有するトヨタ自動車との協力関係を構築したい。

モジュールのメンバー

飯久保 智
総合理工学研究院
教授
役割:計算科学分野
永長 久寛
総合理工学研究院
教授
役割:触媒分野
波多 聰
総合理工学研究院
教授
役割:電子顕微鏡分野
末國 晃一郎
総合理工学研究院
教授
役割:熱電変換分野
辻 雄太
総合理工学研究院
准教授
役割:計算科学分野
渡邉 賢
総合理工学研究院
准教授
役割:蓄電池分野
光原 昌寿

総合理工学研究院
教授

役割:構造材料分野

末松 昂一
総合理工学研究院
准教授
役割:センサー分野

期待される成果・アウトカム

異分野融合と物質データベースをキーワードに、総合理工学研究院内での連携から開始し、将来的には工学研究院、先導物質化学研究所等の関連部局を巻き込んだ連携をすることにより、多角的に物質データベースを利用する技術の研究・開発を進めることが可能となる。また対外的には、トヨタ自動車との連携を強化し、他の材料系企業との共同研究体制、関連学会などとの連携体制を構築する。

研究の成果(令和7年度)

優れた特性を有する物質を発見した際に、さらなる特性の向上を目指すには類似した物質を調査することは常套手段である。どのような性質に注目するかはケースバイケースであるが、結晶構造・電子構造・組織などの基本情報が材料の特性発現には重要である。性質が類似した物質をできるだけ早く探索する方法として、実験データが類似しているものから探すのが直接的であると考え、実験データの類似度を低次元に圧縮して視覚的に表現することができるUMAP (Uniform manifold approximation and projection)に着目した。本年度は実験データとしてXRDパターン、類似度の指標として結晶構造をとりあげてUMAPデータベースのコンセプトの検証を代表者が行なった。検証が終了したのちに、共同研究者との連携によりデータベースの拡充を行う予定である。また既存のデータベースとの違いについて、既存の物質・材料データベースでは、結晶構造と物性を一対一に対応させて整理されている。本データベースは、実験データはあるが結晶構造などの詳細な解析が終わっていない段階においても、物質・材料間の関係性を調べることができる点において優れていると考えている。

検証用としてMaterials Projectの結晶構造を用いてXRDパターンのデータセットを作成した。10 < 2θ < 60の範囲でCu Kα線のXRDパターンを作成し、1構造あたり5000次元のデータとしてBCC、FCC、HCP構造の純金属のデータセットを254個作成した。umap-learnを使用してUMAPを作成し、形成されたクラスタの分離度についてUMAPパラメータの依存性、データの前処理との関連性を系統的に調べた。

まず10 < 2θ < 60のXRDパターンをもとに作成したUMAPを図1(a)に示す。BCC、FCC、HCP構造が次元圧縮した二次元空間ではほとんど分離せず、構造の類似性が表現されていない結果となった。一方、XRDパターンのピーク部分を抽出し、さらに主成分分析により50次元まで圧縮したデータに対してUMAPを作成すると、図1(b) のようにBCC、FCC、HCP構造がクラスタに分離する結果が得られ、Structure Fingerprintとも良い相関を示すことが明らかとなった。これらの結果をもとに、物質探索におけるUMAPの発展を引き続き検討したい。

今年度取り組んだ課題において、UMAPデータベースのコンセプト検証が完了したと考えている。ここから発展させて、本モジュールで検討する材料開発研究拠点を機能させるためには、分野横断的に蓄積される実験・計算データを活用し、有望な材料候補を効率的に探索・高度化するためのデータ駆動型手法の確立が不可欠である。次年度以降は共同研究者との実験データの共有により実際の材料開発に資するデータベースへの改良を進めたい。

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