脱炭素エネルギー先導人材育成フェローシップ 2022年度
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wolle国際学会での口頭発表(The 28th International Input Output Association Conference, 2022年9月マレーシア)新型コロナウイルス蔓延による工場の稼働停止やロシアによるウクライナ侵攻によってグローバルサプライチェーンが大きく変化しています。前野くんはこのグローバルサプライチェーンの変化が環境に与える影響を分析しているだけでなく、そのサプライチェーンの最適化を通して環境負荷の低減を図ることを目指しています。前野くんには単なる論文出版だけにとどまらず、その成果を広く世の中に還元する姿勢をもって研究に取り組むことを期待しております。図1. 日本の自動車サプライチェーンの再構築によるCO2排出削減効果6Q-Energy Innovator FellowshipMAENOKeitaro経済学府経済システム専攻 博士後期課程2年※ 産業がモノ・サービスを生産する際に必要となる、原材料・部品・輸送・中間サービスなどの世界的な供給網経済学研究院 教授指導教員からメッセージ現在、世界における多くの国家が「2050年CO2 排出ネットゼロ」を目標に掲げており、世界の産業部門はこの目標への適応に迫られています。国際貿易に伴う産業由来のCO2 排出量は、グローバルサプライチェーン※の発達によって1990年から2010年代にかけて大きく増加し、世界の気候変動を加速させる主要因の一つとなっていることから、産業のグローバルサプライチェーンを通じたCO2 排出(つまり、カーボンフットプリント)を削減することは、気候変動の緩和に向けて世界共通の課題として認識されています。このようにカーボンフットプリント削減への要求が高まる中、現在世界の産業はCOVID-19パンデミックやロシア/ウクライナ紛争などの影響を受け、既存のグローバルサプライチェーン構造を見直し、分断リスクに対して強靭なグローバルサプライチェーンを再構築する動きを見せています。私の研究は、各国各産業がこの「グローバルサプライチェーンの再構築」を通じて、より低炭素型のグローバルサプライチェーンへの移行を進めていくために、政策決定者はどのような戦略を採るべきなのかを明らかにすることを目的とした分析を行っています。具体的に、本研究は多地域産業連関分析モデルを用いて、日本の自動車生産に伴うグローバルサプライチェーンを対象としたケーススタディを行い、以下の図1のような結果を得ました。図1は、日本の自動車サプライチェーンが、特定のサプライヤー:5部門(電気機械・自動車・基金属・化学製品(中国)、基金属(ロシア))をターゲットとした再構築を進めた場合におけるCO2 排出削減効果を示しています。横軸が各ターゲットを中心とした日本の自動車サプライチェーンの再構築進行度を表しており、縦軸がCO2 排出削減効果を示しています。図1中のマーカーは、国際貿易市場における各ターゲットの代替性を考慮した、実現可能性の高い再構築の限界点を示しており、点線部分は限界を超えた場合のCO2 排出削減ポテンシャルを示しています。図1から、日本の自動車サプライチェーンの再構築によるCO2 排出削減ポテンシャルが最も大きいターゲットは電気機械部門(中国)である一方、実現可能性を考慮すると自動車部門(中国)であることが読み取れます。この結果は政策決定者が、低炭素型サプライチェーンの再構築を進めるうえで重要な情報として活用できます。グローバルサプライチェーンの再構築はCO2 排出削減のチャンス加河 茂美グローバルサプライチェーンの再構築を通したCO2排出削減前野 啓太郎01f

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