脱炭素エネルギー先導人材育成フェローシップ 2022年度
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wolleグローブボックスを使用しての電池組み立ての様子高エネルギー密度・高い入出力特性・高い安全性を備えた次世代蓄電池の開発は、脱炭素社会を実現するうえで重要な課題の一つとなっています。我々の研究室では、大気中で安定な酸化物からなるLiイオン伝導体を用いた全固体電池やLi-空気電池など次世代蓄電池に関する材料研究に取り組んでいます。竹野君には、フェローシップを通して、材料科学だけにとらわれず、様々な分野の学生さんと共に学ぶことで、広い視野を持ち、脱炭素社会の実現に貢献できるような研究者に成長することを期待しています。Q-Energy Innovator FellowshipTAKENOShinichi17総合理工学府総合理工学専攻博士後期課程1年総合理工学研究院 准教授指導教員からメッセージリチウムイオン電池は充電を行うことで繰り返し使用可能である二次電池の一種であり、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池などの二次電池と比較し、高い動作電圧、エネルギー密度を有しています。そのため、小型で高容量な二次電池として普及し、現在ではスマートフォンやパソコンなどの電子機器のバッテリーに広く使用され、日常生活に不可欠な電池となっています。また、近年では電気自動車のバッテリーやスマートグリッドなどの脱炭素社会において重要な役割を持つ技術への利用が進められています。電気自動車やスマートグリッドに用いるリチウムイオン電池は高容量化・高エネルギー密度化が求められています。新エネルギー・産業技術総合開発機構の定めた開発目標では2030年までに現行リチウムイオン電池の約2倍の400 Wh kg-1のエネルギー密度が求められており、革新的なリチウムイオン電池の開発が求められています。現行のリチウムイオン電池の電極は電荷を蓄える活物質の他に導電助剤や結着材で構成されています。電池の容量は、電極に使用する活物質の量が多いほど高くなり、エネルギー密度は電極中の活物質の割合が大きいほど高くなります。そこで本研究では、高容量・高エネルギー密度化を実現する新しい電極として、焼結体電極に注目しています。焼結体電極は活物質のみを高温で焼結し、高密度な焼結体としています。焼結体電極は活物質のみで構成されているため、高いエネルギー密度が実現可能です。しかし、焼結体電極は導電助剤を含まず、内部に電解液がしみ込まないため、充放電の反応に必要な電子・Liイオンの輸送は活物質自身の電子・Liイオン混合導電性のみに頼ることになります。従って、焼結体電極の充放電特性を向上させるためには、活物質の電子・Liイオン混合導電性をいかに高めていくかが重要であり、私の研究ではその設計指針を確立していくことを目的としています。私はこれまでに、代表的な正極活物質であるLiCoO2 をモデル材料とした焼結体正極について検討してきました。LiCoO2 は電子伝導率2.3×10-3 S cm-1、イオン伝導率8.3×10-8 S cm-1とLiイオン伝導が非常に遅い混合導電体です。私は、LiCoO2にLiを過剰に添加することによってLiイオン伝導率が2.7×10-5 S cm-1まで増大し、LiCoO2焼結体正極の充放電特性を飛躍的に改善できることを見出しました。開発した電極を用いることで、現行のリチウムイオン電池の約3倍である11.2 mAh cm-2もの面積容量が得られ、焼結体電極の混合導電性制御が電極特性の改善に有効なことを実証してきました。博士研究では、ペロブスカイト型酸化物であるLi3xLa2/3-xTiO3(LLTO)を用いた焼結体負極について検討をしています。LLTOは室温で10-3 S cm-1ほどの高いバルクのLiイオン伝導率を示す固体電解質として知られています。また、Li脱挿入反応が低電位でおこるため、高い出力特性を示す負極材料としての利用も期待されています。しかし、LLTOの電子伝導率は10-8 S cm-1以下と低いため、焼結体負極として応用するためには、LLTOの電子伝導率を飛躍的に向上させる必要があると考えられます。そのため、現在は、LLTOの電子伝導率を飛躍的に向上させることができる置換元素を探索しながら、LLTO焼結体負極とそれらの関係を系統的に調査しています。渡邉 賢電子・Li イオン混合伝導性ペロブスカイト型酸化物の探索竹野 慎一12f

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